虚伝と背反 11
僕は英貴君の元へ向かっていた。
ライヒには悪いが、彼の元へ行くと言えば、いつも嫌がるから黙って出てきてしまった。
どうか起きないでくれ、と願いながら英貴君の待つ場所へと足を運んだ。
あの人の事だ、こんな時間に呼び出すという事は、それなりの情報があると見て差し支えないだろう。
ライヒの為にも今頑張らなくては意味がない、と考えながら駅周辺を歩いていたが突然、急に激しい動悸と頭痛に襲われた。
元々自分が貧弱だとは自覚していたが、昼間はここまで調子は悪くなかった。
何故急に、こんな場所で。
せめて、人通りの少ない場所に行かなくては、こんな目立つ場所にいるわけにはいかない。
路地裏を通って行こうと考え、一歩踏み出した瞬間に地面へと倒れこんだ。
_ごめん、ライヒ。
***
「遅ぇなあいつ…」
既に待ち合わせ時間は1時間過ぎている。
巡が時間を間違えないとすれば、道を間違えたか。巡に限って時間を間違えるとは思えないし、方向音痴でもなければ、初めて待ち合わせる場所でもない。
考えられる可能性は「面倒なやつ」に遭遇したか。
待っていても仕方無い、探しに行くか。
巡に「探しに行く」とメッセージを送り、地味な通りを抜けて繁華街の方へと向かった。
***
なんとなく嫌な予感はしていた、こんな場所で倒れたら当然だよね。
うっすらと意識が戻った頃にはもう遅かった。
僕は何者かに捕らえられた様で、今はそいつらの車の荷台に詰め込まれている。
ガムテープか何かで手足が縛られ、狭い荷台では身動きもまともにできない。
運よく目隠しが外れた為、周りの景色は辛うじて見えているが、目を覚ました事がバレては危険だ。
大人しく、停車するのを待っていた。
幸い、携帯以外は個人情報の特定できるものを持ってきていなかった。とはいえ、その携帯を確認されるのが一番まずいのだけれど。
これから僕を待ち受けるのは拷問か、単なる処分か。どちらにせよ、ライヒの身は守らなくては。
そう決心した瞬間に、停車し扉が開いた。
すると何かを飲まされ、そいつらは荷物の様に僕を運んでいった。
***
ふと、目が覚めてベッドから起き上がる。
体の傷はほぼ塞がっていて痛みは無かった。
読書をしていたらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
窓の外は暗く静かで、携帯で時間を確認すると既に日付が変わり、夜中だということがわかった。
「お腹…空いたかも」
理希が夕方に来てから後、2時間も経たないうちに再び眠っていたので少食ではない俺には軽めの食事では夜中まで持つ訳がなかった。
夕飯の残り等が無いかキッチンのあるリビングの方へ向かおうとした時、巡の部屋の扉が開いている事に気づいた。
「起きているの…?」
巡は扉を開きっぱなしにする事は無いため、不自然に思い、覗きこんでみる。
そこにはただ、誰もいないベッドと、画材や書類の散らばった机があるだけで、そこに巡はいなかった。
キッチンの方へ向かったが夕飯を食べた形跡は無く、勿論巡はいなかった。
どこに行ったのだろう、と徐々に不安になり始める。
携帯に連絡は来ていないし、何度も電話をかけても一向に出る気配はない。
一時間くらい、若しくはもっと短いかもしれないし、長いかもしれない間、俺はずっと連絡を取ることを試みた。が、巡からの反応は一切無かった。
探しに行かなくては、と服を着替え外へ飛び出した。
その時には、空腹の事も全く頭には残っていなかった。
何時に出たのかはわからない。その為移動距離は推測できない。
必死になって巡が行きそうな場所へ足を運ぼうとするが、体力にはあまり自信はない。
しばらく体を動かしていないせいか、すぐに呼吸が荒くなる。
繁華街の方へ出たところで、限界が訪れた。
夜中とはいえ、人がまだちらほらといる。
どう見ても子供にしか見えない俺が出歩いていたら、間違いなく補導されるだろう。
人通りの少ない方へと進み、腰を下ろす。
携帯を見ても時間だけが過ぎていただけで、巡からは音沙汰は無い。
頭が働かず、ただぼんやりと空を見上げた。
眩しいネオンのせいか星は見えず、ただ黒く塗りつぶされたような地味な色が広がるばかりだった。
立ち上がった直後に俺の視界は真っ暗になった。
何者かに視界を遮られている。
状況を理解した頃には口を塞がれ、強い力で引きずられていた。
抵抗を試みたが髪を引っ張られ、結局元の状態へ戻ってしまう。
一体どこへ連れていかれるのか。これから何が起こるのか、巡は無事なのか、等を考えているうちに固い壁のようなものに叩きつけられる。
後頭部を強く打ちつけてしまい、激痛に悶絶する。
不意に死という言葉が頭を過る。
散々恨みを買っているはずだ、殺されても仕方がない。
「ガキがこんな時間に何してんだよ」
突如聞き覚えのある、どこか腹立たしい嫌いな声。だけど今だけはその声を聞いて安心してしまっていた。
何かの勢いよくぶつかる音、誰かの悲鳴、何かの倒れる音が耳を突き抜けていく。
視界は塞がれ何一つ見えないが、怖いと思う事は無かった。
「おい、生きてるよな」
目隠しを解かれ、焦点の定まらない目が始めにとらえたのは、大嫌いな奴_東英貴の顔だった。
「騒ぎが大きくなる前に行くぞ」
と、英貴は自分より大きい俺を抱え走り出した。
大嫌いな奴の腕の中になんて居たくないけれど、今回は身を任せようと思う。
俺は目を閉じ、自分の行き先をこの男に任せていた。
***
…なんで巡じゃなくて、こいつがここにいるんだよ。
あいつに何があったんだ、こいつが襲われていたのは偶然か。
とにかく、あいつは自分の事よりもこのガキが大切みたいだから、お前は後回しだからな。
約束くらい、守ってやるよ。と、思いながらオレはでかい荷物を抱えながら家まで走った。
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