虚伝と背反 9

しばらくして、メールの返信が来た。

「でしたら、あなたの理想、願い、欲望の全てをお伝え下さい。いつでも構いません、考えが纏り次第、ご連絡いただければ幸いです。最高の日々を過ごせるようお祈りしています」

要するに、僕の思う全てを伝えれば、また刺激的な毎日を過ごせるらしい。

すぐに決めてしまっては勿体無い。折角のチャンスだ、じっくり考えるとしよう。

「本当にいいの?」

突如声がして、声の聞こえた方へと振り返る。

自室には僕しかいないはずだけれど、開けたはずのない窓の縁に青年が座っている。

綺麗に切り揃えられた黒髪に、生気を感じない程に白い肌。どこかで見たような黄金色の目で見つめられ、僕も見とれてしまっていた。

青年の着ている病衣が風で揺れている。

「本当にいいのかな、それで」

透き通った声で僕に問いかけてくる。

「君は…?」

僕の問いかけを無視して青年は

「君がそれで良いなら構わないよ。僕には止める権利なんて無いからね、良く考えてみてね」

と、言って窓から飛び降りた。

慌てて窓から下を見てみても誰も居なかったし、青年が落ちた形跡も無かった。

…誰だったのだろう。その疑問だけが僕の中には残っていた。

***

これから先、彼を中心として、また様々な怪奇現象や奇妙な事件が起きるはずだろう。そしてそこには彼と接触した者達も巻き込まれる事だろう。

彼は気づいているだろうか。

「過度な欲を持つ人間の近くで怪奇現象の様な奇妙な事が起こり最終的にその人は異世界に連れていかれる」という噂を。

そして、「その異世界はこの世界との違いがほとんど無く、自分が異世界に連れてこられた事さえも気づかないらしい」という性質を。

ここで気づいていれば、賢明な判断をする者は帰る方法を探すだろう。

しかしこの少年はどうだろうか、仮に気づいていたとしても帰らないという選択を取るのではないか?

そうだとしても、誰も止める権利なんて無い。これは彼の、彼自身の話だから。

本来なら誰も干渉できるものではない。それを理解した上で、彼を止めるものがいるのなら、また一つ流れが変わるかもしれない。

良い方向とは限らない、破滅を招くかもしれない。その先は誰にもわからない。やってみなくてはわからない。

ならば、自分も流れを変える方へ進もう。

「…もしもし、桜良ちゃん?」

ぷらたぷらねっと

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