虚伝と背反 6
僕のした事は間違っていたのだろうか。
あの子の不安や降りかかる危険を取り除いてあげるのが僕の役目だ。
折角できた友達から引き離したくないけれど、あの子に危険が及ぶなら迷ってはいられない。
もう辛い思いはさせたくない。ちゃんと一人でも大丈夫になるまでは僕が支えてあげないといけない。
だから、これは守るためだから。
***
僕の所属する新聞部で無事、新聞が発行できた事を祝ってお疲れパーティというものをやるらしい。
多分、先輩が騒ぎたいだけなのだろうけど、折角のパーティなら楽しくやりたい。
くじ引きで役割を決めた結果、僕は「盛り上げ係」という一番引きたくなかった役を引いてしまい、パーティグッズを探しに買い物に来ている。
「香井さんも連れてくるべきだったかな…僕一人じゃ何が良いのかもわからないや」
百均や雑貨屋、大体何でも揃いそうなお店…とにかく手当たり次第探してみても、なかなかグッと来るものが無かった。
時刻は正午を過ぎてしまい、昼食にしようと、ファーストフード店に入った。
揚げ物の美味しそうな臭いに、更に空腹感が増す。
ふと、見覚えのある姿が目に映った。
ファーストフード店に来るとは思えない、フリルたっぷりの黒い服、耳の高さで二つに結んだ髪、まるでアニメか何かのキャラクターみたいな格好で、ハンバーガーを頬張る明里さんがいた。
「明里さん…?」
僕は顔を覗きこんで声をかける。
「誰かと思えば成島少年ね、食事中に顔を覗きこまないでくれる?」
相変わらず棘のある口調で明里さんは、僕の声に反応した。
「ずっと立っていないで座りなさいよ」
と、明里さんは隣の席を指差す。
それから明里さんはハンバーガーを追加し、僕の分まで買ってきてくれた。
本人は「ありがたく受けとりなさい」と言って渡してきたが、一番高いハンバーガーだったのは彼女なりの優しさなのだろうか、どちらにせよ感謝しなくては。
「そういえば、あんた結局あの後どうしたのよ」
明里さんが単刀直入に聞いてくる。
あの後とは間違いなく、あの廃ビルでの話だろう。
「あたしに話しかけてくるぐらいだから、恨まれてはいなさそうね」
ニヤニヤと笑いながら紅茶を飲む明里さん、勿論、僕は彼女を恨んでいない。
「電話がかかってきて、ライヒ君を助けるよう
指示されたので、それに従いました」
黙って聞いている明里さんに続ける。
「ライヒ君の携帯を使って、彼を巡さんに引き渡して帰りました」
言い終わると同時に明里さんが
「ちょっと気になったんだけど、あんた電話がかかってこなかったら、どうしていたわけ?」
一瞬考えが浮かばなかった
「そのまま見殺しにしたわけ?それとも救急車でも呼ぶつもりだった?」
僕に疑いの眼差しが向けられる。
「そうですね、彼は助かりたい訳では無さそうでしたのでどちらかと言えば、弱っていく様子を見ていたかもしれませんね」
「友達がいの無い奴…」
明里さんは嗤っていた。
「あ、でも一つ気になったのが、明里さんがナイフに何かを仕込んでいた可能性も考えて、僕の手で彼が本当に吸血鬼なのか確認してみたかったですね」
「例えば方法は?」
明里さんの顔は見えない。
「あなたが銀が弱いと言っていたので、身体中に銀製品を触れさせてみたり、実際に僕も彼の肌を切ってみたり、僕の血を飲ませた時の反応とか…知りたいことは沢山あるんですよ」
これは好奇心、僕自身の興味。
嬉々として語る僕に明里さんは
「あんたの探求心は素晴らしいわ、だけどもう首は突っ込まない事ね」
と、かなり強い口調で言った。
声が大きかったせいか、周囲の客がこちらを見ている。彼女の服装もあってかかなり目立っている。
「…一旦場所を変えるわよ」
人目の少ない場所へ移動し、話を続ける。
「何故、皆さんそこまで必死に止めるんですか?僕にそこまでする理由は何ですか?」
わからない、たかが他人をそこまで引き止める皆さんの気持ちが。
「別にあんたの為って訳じゃないわよ、これ以上めんどくさいのが増えたらたまったもんじゃないわ」
明里さんの態度は変わらない。
「逆に、あんたは何でそんなに執着するわけ?」
僕の答えは決まっている。
_明里さんは信じられない、
といった様子で僕を見ていた。
「これで満足しましたか?僕、そろそろ行きますね。ハンバーガー、御馳走様でした」
明里さんに笑みを向けるが、明里さんは僕の顔を見ていない。
横を通りすぎる瞬間、
「狂っているわね」
と、言われた気がした。
***
あたしはあいつを甘く見ていたのかもしれない。
あいつが発した言葉_
「_そんなの楽しいからですよ」
あいつも見たはずだ。あの吸血鬼のやった事、それと怪しいメール。
それを踏まえてまだ楽しいと言っている辺り、本当に狂っているか、余程の変人か。
あの橘とかいう男も、吸血鬼の眷属だか何だか知らないけどよくわからない。
香井も何故、吸血鬼を狙うのかわからない。何より成島少年に肩入れしている理由がわからない。
成島少年、あいつは一番理解できない。そもそも何故ここに来た?
「…一体どうしたらいいの」
今のあたしには何もわからない。
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